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2022年07月20日

発行元:(株)資生堂

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資生堂、老化の伝播を引き起こす「真皮老化細胞モデル」の開発に成功

~再生医療研究の知見を活かした肌老化の根本原因解明への一歩~

資生堂は、再生医療研究の知見を活用し、老化細胞※1から分泌されるSASP因子※2等を介して周囲の細胞に老化を連鎖させる特徴を持つ「真皮老化細胞モデル」の開発に成功しました。これにより、これまで困難とされてきた老化細胞およびその周囲の細胞の様子、SASP因子が及ぼす影響について、安定的に詳細な観察をすることが可能になります。また、開発した「真皮老化細胞モデル」を用いて、ニーム葉抽出液がSASP因子分泌の制御に関わるNFκB※3産生を抑制することを確認しました。本研究の成果の一部は「日本組織培養学会 第94回大会」(2022/7/8)にて発表しました。
本研究は、資生堂独自のR&D理念『DYNAMIC HARMONY』のInside/Outsideというアプローチで研究を進めています。最先端の再生医療技術の知見を活かして、細胞単体の老化だけではなく、周囲の細胞に及ぼす影響についても明らかにすることのできる細胞モデルを構築し、皮膚内部で起こる老化現象を解明し、老化に根本からアプローチする革新的な価値を創出します。

※1 内因性または外因性ストレスによって細胞老化を引き起こした細胞のこと。
※2 細胞老化随伴分泌現象(Senescence-associated secretory phenotype)で分泌される因子。
※3 Nuclear Factor-kappa B:炎症において重要な働きをする転写因子。紫外線などの刺激によりNF-κBが活性化すると、IL-1等の炎症性因子に代表されるSASP因子を分泌し、周辺組織に影響を及ぼすとされています。

図1老化の伝播メカニズム(イメージ図)

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研究の背景

資生堂は皮膚老化に関する研究に長年取り組み、真皮幹細胞が見た目の老化を改善する仕組みや、免疫細胞が皮膚内の老化細胞を排除する仕組みなど、多岐にわたり皮膚の抗老化機構の解明を行ってきました。一方で、研究に必要となる老化細胞は、皮膚組織から取り出しても増殖性が低く、入手が困難であることから、実験に用いるためには時間と工夫が必要でした。
当社は2013年から本格的に再生医療研究に着手しており、一連の研究の中で肌の老化を研究するため、生体内に近い性質をもつ老化細胞の再現に取り組んできました。そこで今回、その知見を活用し、「真皮老化細胞モデル」の開発を目指しました。

開発した「真皮老化細胞モデル」

生体には、自然に体内から老化細胞を除去する仕組みが備わっていますが、加齢などにより除去機能が衰えると老化細胞は体内に蓄積され、SASP因子等を分泌して慢性炎症やコラーゲンの分解などを引き起こすことが知られています。今回開発に成功した真皮老化細胞モデルは、細胞サイズの肥大化、細胞増殖の停止、老化マーカーの検出といった老化細胞の特性が再現されており、炎症性サイトカインを中心とした複数のSASP因子の発現も確認しています。また、細胞増殖性を停止した状態で長期培養することができるため、三次元皮膚モデルなど、幅広く応用できると考えています。

図2 老化細胞モデルは細胞増殖を停止している

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図3 老化細胞モデルは老化マーカー検出レベルが高い

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図4 老化細胞モデルは炎症関連因子の遺伝子発現が高い

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SASP因子分泌に関わるNFκB産生を抑制するニーム葉抽出液

皮膚内で老化の連鎖を引き起こす原因であるSASP因子を分泌する真皮老化細胞モデルを用いて、SASP因子の分泌を制御しているNFκBの機能を抑える薬剤の有用性検証を行いました。その結果、センダン科植物の一種であるニーム葉抽出液が、NFκBの遺伝子発現を抑える効果があることを確認しました。

図5 ニーム葉抽出液によりSASP因子分泌の上流を制御するNFκB遺伝子の発現量が低下する

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今後の展望

本研究により、老化現象の解明に重要なSASP因子と皮膚老化の関係性をより詳細に研究することが可能になりました。今後も、「真皮老化細胞モデル」を用いて、新たな実験法の開発や、これまでにはない皮膚老化へのアプローチ創出などに挑むとともに、当社のミッションである「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD」の実現を目指して、異分野と皮膚科学研究との知見・技術を融合し、お客さまの期待を超えた新たな価値の創出に挑戦し続けます。

※このリリースに記載されている内容は発表時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご留意ください。